第21話〜第25話

第21話 疑問
月明かりの中、狼の眼が光っていた。
驚いた狐は逃げようとしたが
襲い掛かって来る気配は無かったので
こわごわ近づいてみた。

狼は、傷ついた後ろ足を隠すように
身じろぎもせずに伏せている。
それに気づいた狐は助けようとした。
だが狼は狐を追い払った。

傷口に食い込んだ鉄の牙は
とても自力で外せそうにない。

夜が明け、次に通りかかったのは仲間の狼。
助けを呼ぼうとしたが、かたくなに拒まれる。

そして、さらに数日が過ぎ
悪化していく傷に衰えていく体力。

狼は知っていた。

ぶざまな死にざまに同情はなく
ただ笑われるだけ・・・

深い眠りに襲われ意識が遠のく中で
熱にうなされた狼は呟いていた。

「どうでもよいこと・・・」

 

最後に一言。

あなたも笑いますか?

第22話 聖なる使い

空から来た使者が大地の番人に問う。

番人は精霊を呼び、精霊は妖精に答えを求め
妖精は万物の魂に問いかけ、ひとつの答えを得た。

使者は、その答えに満足せず再び問いかけた。
その瞬間、激しく時間が逆流した。

やがて、ひとつの答えが新たに出されたが
使者を満足させることは出来なかった。

そして・・・ 同じ時間が幾度も繰り返される中で
使者の表情は苛立ちに歪み、その眼からは怒りさえ感じられた。

恐れた・・・ 誰もが恐れた。

そして祈った。

いつしか使者の姿は消え
何事も無かったかのように風が流れていた。

 

最後に一言。

答えがあってはダメなんです。

第23話 ちから
いつも片手をポケットに入れている二人の男がいた。

痩せた男は右手を、肥った男は左手をポケットに。
二人の男は、けしてポケットから手を出すことはなかった。

痩せた男のその手は、すべてを氷りつかせる力があり
肥った男の手は、すべてのものを燃やし尽くしてしまう。

今まで二人の男が出会うことはなかった。

痩せた男は闇を好み
肥った男は光の無い夜は出歩かなかった・・・

しかし、ある事を引き金に時間のバランスが崩れ始めた。

そして・・・ 二人の男は出会い
互いにその手をゆっくりポケットから出した。

二人の男が立つ位置を境に、たちまち炎と氷の世界が繰り広がる。

ふたつの手が触れ合うのは、もはや時間の問題。

人々は悲しいくらいに無力だった。

 

最後に一言。

キッカケなんて些細なことです。

第24話 真実
よく喋る女は、何時も真実を語っていた。
けれど女の話に耳を傾ける者は誰一人いなかった。
そして・・ ある日、女は何も語らなくなった。

とある街に誰も聞いてくれる者がいないせいか
口数の少ない男がいた。
男を知っている者達は口を揃えて「うそつき」呼ばわりする。

そんな男がある日、突然雄弁に語りだした。
人々は慣れない光景に興味をそそられたのか耳を傾けた。
男の話は尽きることなく延々と続き
その周りは人の群れで埋め尽くされた。

その中には、よく喋っていた女もいた。
延々と語っているその男に指差し、女は長い沈黙を破って口を開いた。
「うそつき・・・」

女の声は弱々しく男の声にかき消され誰の耳にも届かなかった。

女は男に向かって再び言った。
「うそつき」
やはり女の声は届かなかった。

男の話に人々は笑い、また泣きながらも飽きることなく聞き入っている。
やがて女は、その場から立ち去ろうとした・・・

その時、男は突然女の後姿を指差し「うそつき」と叫んだ。
人々の視線は、いっせいに女に向けられた。
そして誰からともなく「うそつき・・」「うそつき!」と騒ぎ出し
無責任な野次が女の背中を突き刺した。

人々は女が立ち去ることを許さなかった・・・

  

最後に一言。

彼女は、どうなるのでしょうかね?

第25話 戯事
すべてのものを手に入れながら
さらに不老不死を求め旅している老いた男。

すべてを失った絶望の中
なおも夢を追い続け旅している若い男。

だが男達は気づいていた。
探し求めているものなど何処にも無いことを。

対照的な二人が旅の末、同じ場所に行き着き出会った。

長い時間、二人は語り合った。

老いた男は、若い男の哀れな話に同情し
若い男は、老いた男の満ち溢れた生活を妬んだ。

二人の男は互いの持ち物を交換し合うことにした。

老いた男が差し出した物は
ふたりの体を入れ替えることが出来る妙薬。

若い男が差し出したのは一枚の写真。
その写真には魅力的に笑うひとりの女性が写っていた。

薬を飲み、体が入れ替わった二人の男達は
新しい生活に胸ふくらませ別れた。

老いた男は若さを取り戻し、写真に写っている女性の元へ・・・
すべての贅沢を手に入れた若い・・・ イヤ、老いた男は
今や王となり、自分を待つ城に向かって・・・

今、長い旅が再び始まった。

しかし・・・ 写真に写っている女性は、すでにこの世の人ではなく
また・・・ 城までの道程は、老いた体には遠過ぎた。

  

最後に一言。

笑えませんよね。

第26話 歌手と踊り子
踊り子は、歌えない歌手に約束した。

「あなたの歌でしか踊らない」・・・と

歌えない歌手は、華やかな舞台に立ち
ひとりスポットライトに照らされる日を夢見た。

長い歳月の間、踊り子の約束は守られ
今では、その名前を知る者もいない。

さらに歳月は流れた。

あの約束から二度と踊ることなく
踊り子はこの世を去った。

今、歌手は歌えぬまま舞台に立った。
そして・・・ ライトを浴びた。

鋭く照らされたスポットは真実への道標。

鮮やかな衣装とは対照的な姿に客は戸惑った。
その喉から絞り出された声に舞台はざわめき
客の顔を歪めさす。

歌手は、もう何も見えていないし聞こえていない。

だから・・・
だから歌手にとって初舞台は大成功の内に終わり
喝采の中、静かに幕が下りる。


 

最後に一言。

歌手と踊り子・・・ どちらが幸せ?
目次へ戻る

第27話 ふたつの秤
男の前に差し出されたふたつの秤。
左に置かれた秤の針は過去の喜びと悲しみの量。
右に置かれた秤の針は、まだ "無" の位置。

男は迷っていた。

今、未来の分量を変える事は可能だが
それを実行すれば過去にも変化が起きる。

それが何を意味するのか男には解らない。

男は迷った。

楽しかった過去も、今となってはただの記憶。
なら・・ 訪れる未来に全てを託そう・・・

男は決めた。

右に置かれた秤の針を迷うことなく喜びの方向へ
同時に左に置かれた過去を示す針も大きく振れた。

もはや男の未来に悲しみは存在せず
また過去に喜びも存在しない。

そして・・・ 何も無い所に男も存在しない。


 

最後に一言。

ある意味で幸せ?

第28話 恋人

君が心魅かれた人の目は
いつも悲しそうで遠くを見つめ
けして君を見ることはないだろう。

整った形の良い鼻は
プライドの高さを象徴しているようで
君の気持ちを受け入れることはない。

そして薄く開いた唇は
優しく語りかけてきそうだが
君の名を呼ぶことはないはず。

それでも君は魅かれる。

よく笑っていた君が
涙を流さずに泣くようになった。

でも、その人には何も聞こえていない。

「悲しい物語はまだ続くの?」
という問いに対して無言のまま微笑んでいた。

君が見ている人は心を持たない人形・・・


 

最後に一言。

さて?

第29話 剣士

話術は巧みだが、まともに剣も使えぬ白い剣士。
何も語らないけれど、剣豪と言われた黒の剣士。

人々は白い剣士の話術に乗せられ
その独断と偏見に満ちた話を聞き入った。

何も語らない黒の剣士に興味を注ぐものはなく
月日と共にその存在すら忘れ去られていく・・・

白の剣士は、話術で人々に人気があるコトを
いつしか錯覚し、剣士としての人気と勘違いする。

白の剣士は剣を抜き、黒の剣士に戦いを挑んだ。
黒の剣士は、剣を抜くこともなくただじっと白い剣士を見ている。

人々は戦いの成り行きを無言で見守った。

黒い剣士は居眠りでもしているかのように静かな立ったまま
逆に白い剣士の額からは汗が流れ、剣を持つ手は震えていた。

結局、黒い剣士が剣を抜くことはなかったので
双方共に戦うことなく戦いは終わった。

白い剣士は、安堵と共に語りだした。
その内容は、黒い剣士が臆病者だと・・・

人々の視線はいっせいに黒い剣士に向けられ
同時に野次が飛び交った。

だが人々は知らなかった・・・

白い剣士の剣は




 

最後に一言。

さて?